『世界見て歩き』は、1990年代後半~2000年初め頃の学生時代の旅の記録が主な内容となっています。情報は古く、内容も青臭いですが、思い出に残してあります。写真は、当時フィルムカメラで撮影していたので、少ない枚数の中から選んだものです。日付入りだったり、そうでなかったりしますが、どうぞご了承ください。

スペイン・アンダルシアの旅2

Traveled in: 1998年 02月
Place:

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山あいにひっそりと存在する村、カピレイラ。この響き、あの風景は一生忘れません。ここで、ある瞬間に出会いました。そして、それまで感じたことのないような、妙な感覚におそわれました。旅も終盤にさしかかり、どんどん自分の中の余分なものがとっぱらわれて「素」の状態に近づいていたから、ちょっと感傷的になっていたのかもしれません。

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なんてことはないのですが、一人のおじいさんの歩く姿を見て涙が次から次へと流れ落ちてきたのです。私は下の村からカピレイラまでの坂道を散歩していました。その前方に、長い道のりを、杖を両手でつきながら一歩、また一歩と恐ろしいくらいゆっくりと歩いているおじいさんの姿がありました。目が離せません。足が不自由なようで、あまりにもゆっくりな動きなので、時間の感覚が分からなくなるほどです。夕暮れまでにカピレイラにたどり着けないのではないか? というスピードです。それでも止まることのない、歩くという動作。たったそれだけの動きを、まさに生きていたおじいさん。胸がきゅーとしめつけられて、熱くなりました。いいようもない感情がこみあげてきて、涙が勝手にこぼれ落ちるのです。あの光景を私は忘れられません。この瞬間に立ち会うために旅に出てきたのだと思いました。それくらいの出来事でした。

その夜、ワインでほてった体を冷ましに夜の山道を散歩しました。カピレイラは、かなり高い位置にあって、そこまで行くのに村人が使うバスが一日に一本しかないという村です。星空は手が届きそうなくらい近くて、降って落ちてきそうというよりも、空間がみえないくらいの数でした。しばらく山肌に寝転がって満点の星空と向き合いました。小川の流れる音だけが聞こえてきて、とても静かな夜でした。

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街角で絵はがきを描いて売っていたお姉さんにカメラを向けたら、くしゃっとはにかんだ、とてもいい表情をしてくれました。それはとても緻密なスケッチ画でした。どんな方法でもいいから、とにかく自分を表現できる技術がほしい。強くそう思いました。