『世界見て歩き』は、1990年代後半~2000年初め頃の学生時代の旅の記録が主な内容となっています。情報は古く、内容も青臭いですが、思い出に残してあります。写真は、当時フィルムカメラで撮影していたので、少ない枚数の中から選んだものです。日付入りだったり、そうでなかったりしますが、どうぞご了承ください。

ポルトガル周遊記5

Traveled in: 1998年 02月

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翌日、ナザレから日帰りでオビドスという街を訪れました。バス停で同じく京都出身のYくんと出会い、なんとなくそのまま一緒に行くことになりました。オビドスはとにかく小さかったです。街全体が城壁に囲まれていて、まるで時間が止まったかのような雰囲気につつまれていました。城壁の上を歩くのはとても怖かったけれど、見晴らしは最高でした。すごかった。しばらくは人と一緒であることを忘れて、ぼんやりしていました。声をかけられるまで動けなかったほどです。そういう場所で、自分のペースを保ちながら過ごそうと思うと、絶対に一人がいいのですがYくんは窮屈さを感じさせない人でした。最初、私は見た目のイメージでその人を判断していました。一人旅をしていて日本人に出会うと、そういうことがたびたびありました。この時私は、自分の人に対する見方を反省しました。そして、その見方を変えようと思いました。あらゆる人間や物、すべての事柄に対して、先入観なしに見たいと思うようになりました。そのほうが世界はもっとおもしろそう。まだまだ未熟で小さい人間です。

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カーニバルで騒々しくなってきたナザレには、いつのまにか仮装した子供たちで埋めつくされていました。老人ばかりと思っていたのに……。それを見ていて、明日はここを発とうという気持ちになりました。

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カーニバルを眺めるおじいさん

ファーロで一泊した翌朝、安宿の小さな窓から見た空があまりにもきれいに晴れわたっていたので、ほんとうは旅の最後にザグレスを訪れるつもりだったのに、「今からザグレス岬へ行こう!」と突然心変わりしました。それで、すぐに荷物をまとめて出発しました。どうやらその日のお天気が私をザグレスへ向かわせたようです。

すると列車の乗り換え駅で、Yくんと再会しました。びっくりしました。彼は一足先にザグレス岬を訪れて、戻ってきたところでした。すぐに列車がきたので、話もそこそこに飛び乗りました。車窓から見える空はあいかわらず晴れやかで、このお日様の中にはやく飛び出したい衝動にかられます。お天気にこれだけ気分を左右されるなんて!

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ラゴスはリゾート地でしたが、宿を決めてから、さっそくザグレス岬行きのバスを探しました。午後3時半までありません。行って、帰ってくると夜の9時頃になります。こういう時、女の子ひとりだとためらいますが、今日中に行きたいという思いがふくらんできて、とうとうチケットを買ってしまいました。でも帰りのバスは最終だし、時間どおりに来るとも限りません。「なんでこんな不安になってまで今日、岬に行くんやろう? 明日でもよかったんちゃうん?」そんな思いで西の果てに向かいました。もう、意地になっていました。

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ザグレス岬は風が吹き荒れていて、まわりには何もありませんでした。人影もなく、陸が途切れていて、空も海も大きすぎて、把握できないほどでした。一人ぼっちで崖まで歩きました。強風に吹き飛ばされそうになりながら、自分でもよく分からない思いを胸に、崖の向こうにはるか広がる海へ向かいました。いいようもない孤独に襲われてきて、もう十分だと思いました。それからバス停にもどって、ひたすら最終のバスを待ちました。見るものがないから、空を見上げました。そこに、またしても大きなオリオン座がありました。時間を忘れて眺めていると、真っ暗な夜道に一筋の明かりが見えてきました。バスがきました。安堵と疲れでへろへろになりながらラゴスに戻りました。こんなにも「自分」を感じさせる行動をとったのは初めてでした。あぶなげで、無謀で、自分ですら何がしたいのかわかっていなくて、それでも体が動いてしまう。そして心がついていかない。

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翌朝6時発の列車で、スペインとの国境の街St.アントニオへ向かいました。重たいリュックを背負って、肌寒い空気の中を足早に駅へ向かいながら、そこで完璧な朝焼けを見ました。紫、水色、濃紺、そしてピンクが混ざったような空でした。まだ半分眠っている心に、つーんと染み入る朝でした。

お昼前、バスの時間を調べていたら、またYくんに出会いました。ランチを一緒に食べながら、夕飯の約束もしました。彼も食べることが大好きで、二人ならいろいろな種類を楽しめるからとても嬉しいのです。そして、ワインを飲みながら、スペインの話を聞きました。初めて聞く「アンダルシア地方」にどんどん気持ちが傾いて、そして、結局お供することになりました。(詳しくはスペイン・アンダルシア地方の旅へ)

スペインからポルトガルへはバスで戻り、夜のターミナル付近にたむろうアフリカ大陸からの出稼ぎ労働者たちの間をすり抜けるようにして宿を探しました。残りの日はリスボンで買い物をして過ごしました。なかでもアルファマ地区の「どろぼう市」で掘り出し物が見つかったり、とても楽しかったです。帰国の前日はサン・ジョルジェ城でリスボンの赤茶けた街並みを見下ろしながら、ゆったりと過ごしました。

新聞記事がきっかけでなんとなくこの国に興味をもってやってきました。大げさに語れることなんてないけれど、この旅の間に感じたこと、見たこと、聞いたこと、出会いがたくさん積み重なりました。一つ一つに思いがあって、どれもが大切な時間となりました。